
「社内にDX人材が不足しているが、外部採用と社内育成のどちらに力を入れるべきだろう?」
全社的なDX推進やデジタル変革が叫ばれる中、多くの企業でボトルネックとなっているのが「具体的にどのような人材を確保・育成すればよいのか」という要件定義の難しさです。単に「ITに詳しい社員」を増やすだけでは、ビジネスや業務の真の変革にはつながりません。
このような悩みを解決する共通の指針として、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が取りまとめたのが「DX推進スキル標準(DSS-P)」です。
本記事では、最新のバージョン改訂(v2.0)を踏まえたDX推進スキル標準の全体像と6つの人材類型の役割をわかりやすく解説します。さらに、なぜ最優先で確保すべき「ビジネスアーキテクト」を外部調達ではなく社内育成すべきなのか、そして「Off-JT(座学)とOJT(実践訓練)」を組み合わせた具体的な育成設計をお伝えします。
- DX推進スキル標準(DSS-P)の概要と導入するメリット
- 最新改訂(v2.0)で追加された「データマネジメント」を含む6つの人材類型
- 6つの類型の中で最も優先して社内育成すべき「ビジネスアーキテクト」の役割
- ビジネスアーキテクトを外部採用ではなく「社内育成」すべき明確な理由
- Off-JT(座学)とOJT(実践訓練)を組み合わせた実践的な人材育成アプローチ
DX推進スキル標準(DSS-P)とは?基礎知識と改訂ポイント
自社でDX人材の育成や採用を進める際、まず理解しておきたいのが「DX推進スキル標準(DSS-P)」の位置づけと、最新の改訂動向です。
IPA(情報処理推進機構)が策定した公的なスキル指標
DX推進スキル標準(DSS-P)は、日本のIT化推進や人材育成を担う独立行政法人 IPA(情報処理推進機構)が、大学教授やIT企業の専門家らと共に取りまとめた公的なガイドラインです。
経済産業省とIPAが共同で提示している「デジタルスキル標準(DSS)」は、全ビジネスパーソンが身につけるべきマインドや知識を示す「DXリテラシー標準(DSS-L)」と、実際にDXを推進する専門人材の役割・スキルを示す「DX推進スキル標準(DSS-P)」の2つで構成されています。

全社員が身につけるべき「DXリテラシー標準(DSS-L)」の4つの構成要素(Why・Mind・What・How)や研修への活用手順については、以下の解説記事で詳しく紹介しています。
バージョン改訂に伴い「6つの人材類型」へと進化
DSS-Pを自社で参照・活用する際に注意したいのが、バージョンのアップデートです。初期のDSS-Pでは5つの人材類型で定義されていましたが、最新のバージョン2(v2.0)への改訂に伴い、「データマネジメント」が新たに追加され、計6つの人材類型に整理されました。
公的な標準規格であるDSS-P(v2.0)を参照することで、社内で「DX人材」という曖昧な言葉の認識をズレなく統一し、客観的な軸を持って育成や評価を進められるメリットが得られます。
DX推進スキル標準における6つの人材類型と期待役割
DX推進スキル標準(DSS-P v2.0)では、DX推進に必要な専門人材を6つの人材類型に分類し、それぞれの役割を定義しています。ここでは、IPAが提示する公式定義をもとに、各類型の期待役割を分かりやすく噛み砕いて解説します。

ビジネスアーキテクト(目的の定義とプロセス全体の牽引)
ビジネスアーキテクトは、「変革を通じて実現したい目的」を明確に定義し、経営視点で最適なビジネスモデルや業務プロセスを設計する役割です。
単に構想を練るだけでなく、戦略を日々の具体的な行動へと落とし込み、持続的な成長サイクルを生み出します。さらに、各部署や専門人材をコーディネートしながら、プロジェクト全体を力強く引っぱって成果を創出します。
デザイナー(顧客体験・対話・製品方針の総合デザイン)
ここでのデザイナーは、チラシ等のグラフィック制作を行う職種ではありません。ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点、コミュニケーションの視点を総合的に捉え、「製品やサービスはどうあるべきか」の方針や開発プロセスを策定する役割です。
ブランドメッセージや顧客接点(タッチポイント)を含めた「コミュニケーション全体」を設計し、それに沿った製品・サービスの理想的なあり方をデザインします。
データサイエンティスト(データ収集・解析とAI活用の仕組み構築)
データサイエンティストは、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みやAIシステムの設計・実装・運用を担う役割です。
蓄積されたデータからビジネスに役立つ示唆やパターンを読み解き、意思決定の高度化や業務自動化をデータ面から実現します。
データマネジメント(安全・信頼できるデータ活用基盤の整備【v2.0追加】)
データマネジメントは、v2.0への改訂時に新設された領域であり、データの安全性・信頼性を確保し、組織全体で継続的にデータを流動・活用できる仕組みを設計・実装・運用する役割です。
一部の専門家だけでなく、組織全体の人材を巻き込んだデータの利活用を促進し、データによる新たな価値創出の土台を支えます。
ソフトウェアエンジニア(デジタル技術によるシステム・アプリの開発と運用)
ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を活用した製品やサービスを提供するために、必要なシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う役割です。
企画・構想された変革アイデアを、確かなプログラミングやIT技術によって実際の形(システム・アプリ)に落とし込み、安定稼働させます。
サイバーセキュリティ(デジタル環境のリスク対策と安全確保)
サイバーセキュリティは、業務プロセスを支えるデジタル環境において、発生し得るサイバーセキュリティリスクの影響を最小限に抑える対策を担う役割です。
新たなデジタル技術の導入や運用において、情報漏洩や攻撃の脅威から組織を守り、安心してビジネス変革に取り組める安全な基盤を維持します。
各ロールに必要なスキル

IPAの公式ガイド(DSS-P)には、ロールごとにこのように細かく要求スキルや重要項目が定義されています。ぜひ公式ガイドを参照し、自社の人材要件定義や人材育成に役立ててください。
なぜ最優先で社内育成すべきなのは「ビジネスアーキテクト」なのか?
6つの人材類型を把握した上で、自社で最も優先して確保・育成すべきなのは誰でしょうか。結論から言えば、それは「ビジネスアーキテクト」です。
IPAが発行した『DX動向2024』の調査データによると、日本企業が「最も不足している」と回答した人材類型の第1位はビジネスアーキテクト(約40%超の企業が回答)となっています。

2位のデータサイエンティストと比較しても2倍以上の企業が不足を挙げており、推進役の不在がDX停滞の最大の要因となっています。そして何より、ビジネスアーキテクトは「外部採用」よりも「社内人材の育成」によって確保することが圧倒的に望ましいという特徴があります。
外部採用ではなく「社内育成」が望ましい3つの理由
- 自社の事業や業務プロセス(ドメイン知識)に精通している必要があるため
ビジネスアーキテクトは「自社のどの業務にボトルネックがあり、どこを変革すべきか」を判断しなければなりません。自社のビジネスモデルや業界特有の文脈を深く理解している社内人材のほうが、圧倒的にアドバンテージがあります。 - 部署間をまたいで「人を動かす」ための社内人脈が不可欠なため
DXは一部署で完結せず、営業・製造・経理・情シスなど複数の関係者を巻き込む仕事です。外部から来た初対面の人材よりも、すでに社内に豊かなネットワークを持つ社員のほうが、スムーズに連携を取り付けることができます。 - 社内での「信頼と実績」が現場の抗拒を和らげるため
組織を変革する際は、現場からの心理的抵抗がつきものです。長年の現場理解や社内での信頼・実績がある社員がリーダーとして語りかけることで、現場の納得感と安心感が生まれ、変革が力強く推進されます。
ビジネスアーキテクトを育成する「Off-JT × OJT」のハイブリッド設計
社内の有望な社員をビジネスアーキテクトへ成長させるには、単に講座を受けさせるだけ、あるいは現場に放り出すだけでは不十分です。
座学(Off-JT)と実践訓練(OJT)の組み合わせが不可欠
ビジネスアーキテクトの育成には、「Off-JT(座学による知識習得)」と「OJT(現場プロジェクトでの実践訓練)」の2つを組み合わせることが絶対条件となります。
- Off-JT(座学・インプット):DXの基礎知識、チェンジマネジメント、要件定義手法、プロジェクトマネジメントなどの「型」を体系的に学習する。
- OJT(実践・アウトプット):学んだ知識をもとに、実際の自社プロジェクトや業務改善の現場で関係者を巻き込み、揉まれながら推進力を磨く。
理論(Off-JT)を知った上で現場での泥臭い実践(OJT)を重ねて初めて、周囲を動かせる本物のビジネスアーキテクトが誕生します。
Off-JT(座学)を効率化する学習ロードマップの活用
Off-JTの部分については、ゼロから自社で教材を作る必要はありません。体系的に整理された「学習ロードマップ」を活用し、順序立てて受講させることが最も効率的です。
自社内でビジネスアーキテクトを育成するための「Off-JT(座学)カリキュラム」として、チェンジマネジメントや要件定義、PJマネジメントを段階的に学べる体系的受講ロードマップを公開しています。効率的なインプット環境としてぜひご活用ください。
まとめ
DX推進スキル標準(DSS-P v2.0)は、最新の改訂で「データマネジメント」が加わり、6つの人材類型として整理された公的フレームワークです。
自社で変革を進める際は、社内人脈やドメイン知識を持つ自社社員をベースに、推進の要である「ビジネスアーキテクト」を社内育成する方針を立てましょう。Off-JT(座学)によるインプットと、OJT(実践訓練)によるアウトプットを組み合わせることで、自社に最適な変革リーダーを確実に育てることができます。
- DSS-Pはv2.0で「データマネジメント」が追加され、6つの人材類型となった。
- 6つのうち最優先で育成すべきは、推進役である「ビジネスアーキテクト」である。
- ビジネスアーキテクトはドメイン知識・人脈・信頼が必要なため、外部採用より「社内育成」が望ましい。
- 育成には「Off-JT(座学)」と「OJT(実践訓練)」を組み合わせたハイブリッドアプローチが不可欠。
- Off-JTの効率的な学習には、体系化された学習ロードマップを活用する。
【DX人材育成・学習ロードマップ】
全社的な教育設計やご自身の学習計画の参考として、本サイトでは3つの役割に応じた学習ロードマップを公開しています。
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ビジネスアーキテクト・推進リーダー向け
既存事業の効率化から新規事業の開拓までをリードするため、プロジェクト推進法やチェンジマネジメント手法などを体得します。







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