企画・デザイン

デザイン思考の5ステップとは?dスクール流フレームワークの基本プロセス

企画・デザイン
悩む人物
「最近ビジネスやDXで『デザイン思考』とよく耳にしますが、そもそもどんな考え方なのか分かりません…」
「5つのステップがあるらしいですが、具体的にどのような流れで進めればよいのでしょうか?」

近年、新規事業の立ち上げや社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉を目にする機会が急激に増えました。世界的なイノベーションの標準手法として知られるのが、スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称d.school)が体系化した「デザイン思考の5段階プロセス」です。

「共感」「定義」「発想」「試作」「テスト」という5つのステップは非常に明快で直感的に理解しやすいフレームワークです。しかし、デザイン思考を初めて学ぶ方の中には、「デザインと聞くと見た目を綺麗にすることしか思い浮かばない」「なぜビジネスパーソンやエンジニアに必要なのか」と戸惑う方も多いでしょう。

本記事では、そもそもデザイン思考とは何かという基礎知識から、スタンフォード流5ステップの全体像と具体的な進め方、そしてチームで実践する際のスムーズな反復(イテレーション)のコツまで、初心者向けに分かりやすく体系的に解説します。

この記事でわかること
  • そもそも「デザイン思考」とは何か?見た目の装飾ではなく「人間中心の課題解決プロセス」である理由
  • スタンフォードd.school流「デザイン思考5段階プロセス」の全体像と8つのコア能力
  • ステップごとの具体的な実務手法(共感マップ、POV問題定義、アイデア発想、プレトタイピング、検証)
  • テスト結果に応じて「どのステップに戻るべきか」を見極める反復(イテレーション)の判断基準
  • チーム全員でデザイン思考を共通言語化するための実践アプローチ

そもそも「デザイン思考」とは何か?

5つの具体的なステップを見る前に、まず「デザイン思考」という言葉の本来の意味と、なぜビジネスで重視されているのかという基本を押さえておきましょう。

見た目の装飾ではなく「人間中心の課題解決フレームワーク」

日常の会話で「デザイン」と言うと、ポスターやWebサイトの配色、製品のスタイリングといった「見た目を美しく装飾すること」を連想しがちです。

しかし、ビジネスやDXで使われるデザイン思考における「デザイン」とは、「人間(ユーザー)の抱える潜在的な課題を発見し、それを解決するための仕組みや体験全体を意図して組み立てること」を指します。優れたデザイナーが日頃から無意識に行っている「利用者を深く観察し、試作を繰り返しながら最適な体験を形づくる思考プロセス」を、ビジネスの課題解決や事業開発に応用したものがデザイン思考です。

なぜ従来のロジカルシンキングだけでは通用しないのか

ビジネスの現場では、論理的に筋道を立てて考える「ロジカルシンキング」が広く使われています。ロジカルシンキングは、「売上を10%伸ばす」「製造コストを削減する」といったすでに解くべき問題(What/Why)が定まっている状況で、最も効率的な解決策(最適解)を導き出す場面で圧倒的な力を発揮します。

しかし、市場のニーズが多様化し変化が激しい現代では、「そもそも顧客は何に困っているのか」「何を解決すれば喜ばれるのか」という問題そのものが不透明です。過去のデータを分析するだけでは新しいアイデアは見つかりません。

デザイン思考は、過去のデータではなく「生身のユーザーの行動や感情」から出発し、「真に解くべき問題を発見・再定義する」ために用いられます。デザイン思考で新しい課題とアイデアを発見し、ロジカルシンキングで実現可能性や採算性を検証するという、両輪の関係で活用することが重要です。

企画の出発点は「人間のニーズ(Desirability)」

デザイン思考では、以下の3つの要素が重なり合う中心領域を目指してプロジェクトを進めます。

デザイン思考における3要素(ニーズ・技術・ビジネス)の統合
  1. 人間のニーズ(Desirability:有用性・魅力):ユーザーが心から求めている価値や、未解決の不満(ここからスタートする)
  2. 技術的実現性(Feasibility:実現可能性):現在の技術やリソースで実際に形にできるか
  3. ビジネスの持続可能性(Viability:事業性):採算が合い、事業として継続できるか

多くの新規事業やシステム開発が失敗するのは、「最新技術が使えるから」「会社が儲けたいから」という技術・ビジネス起点でスタートしてしまうためです。デザイン思考は、「まず人間の満たされないニーズを出発点にし、そこに技術とビジネスをすり合わせる」という順番の徹底を重視します。

なぜ今、ビジネスやDXでデザイン思考が必要なのか?

デザイン思考が現代のビジネスやDX推進で急速に求められている背景や、ロジカルシンキングとの相乗効果についてさらに詳しく知りたい方は、以下の解説記事もあわせてご覧ください。

スタンフォードd.school流「デザイン思考5ステップ」の全体像

スタンフォード大学d.schoolが提唱するデザイン思考の基本骨格は、以下の5つのフェーズで構成されています。

スタンフォードd.schoolのデザイン思考5段階プロセス概要

人間中心でイノベーションを起こす5つのフェーズ

  1. 共感・理解(Empathize):ユーザーの現場の観察や体験を通じて、言葉に表れない無意識の行動や感情(暗黙知)を深く理解する。
  2. 定義・明確化(Define):集めた情報から言動の矛盾を分析し、ユーザーの真のニーズと隠れた本音(インサイト)に基づき「解くべき問題」を再定義する。
  3. アイデア発想(Ideate):定義した問題に対して、「How Might We(私たちはどうすれば〜できるか?)」という問いを立て、質より量で多様な解決策を発散・収束させる。
  4. 試作(Prototype):アイデアを素早く低コストで形にし、机上の空論から抜け出して手を使って考える。
  5. 検証・テスト(Test):プロトタイプを実際のユーザーに試してもらい、仮説の検証と新たな学びを獲得する。

この5つのステップは、一本道の手順マニュアルではありません。テストの結果を受けて共感や定義に戻るなど、「各段階を柔軟に行き来しながら解像度を高めていく反復(イテレーション)のサイクル」となっています。

型に縛られない「8つのコア能力」と音階の考え方

スタンフォード大学d.schoolでは、「5つのステップという固定的な形式に縛られすぎないこと」を強調しています。この5段階プロセスは、本来以下のような「8つのコア能力」を組み合わせて作られた実践モデルの1つに過ぎません。

デザイン思考を支える8つのコア能力
8つのコア能力 能力の定義と具体的な実践内容
他者から学ぶ 多様な人々に深く共感し、現場の観察や対話、テストの共同作業を通じて新たな気づきを得る力。
曖昧さを乗りこなす 正解が見えない不確実な状況でも不安に負けず、複数の可能性を探りながら前進するための戦術を生み出す力。
情報を統合する 集まった定性的・定量的なデータや観察記録を意味づけし、隠れたインサイト(深い洞察)や機会を見つけ出す力。
具体と抽象を行き来する 全体像や目的といった「大きな視点(抽象)」と、細部の機能や仕様といった「小さな視点(具体)」を自由に行き来して統合する力。
素早く実験する 書く、描く、組み立てるなど、思いついたアイデアをどのような形であれ素早く生み出し、手を使って形にする力。
意図を持って構築/製作 相手から得たいフィードバックの目的に合わせ、過不足のない適切な解像度(完成度)で思慮深くプロトタイプを作る力。
意図的な意思疎通 ストーリー、アイデア、学び、コンセプトなどを分かりやすく形成し、チームやユーザーなど適切な相手に届ける力。
デザインワークをデザイン プロジェクト全体を1つの課題と捉え、必要な人々、ツール、プロセスを自ら設計して柔軟に舵取りするメタ能力。

d.schoolでは、この関係性を音楽における「音階(ドレミファソラシド)」に例えています。

「8つのコア能力」の1つひとつが個別の「音符(ド・レ・ミ…)」であり、それらをどのように組み合わせて曲を演奏するかはプロジェクトの状況によって自由に変えて構いません。そして、先ほど紹介した「5つのステップ(共感・定義・発想・試作・テスト)」は、この8つの音符を最も美しく調和させて作られた「代表的な楽曲(定番の演奏パターン)」の1つという位置づけになります。

例えば、「共感」ステップでは「他者から学ぶ」「曖昧さを乗りこなす」という能力を使い、「試作」ステップでは「素早く実験する」「意図を持って構築する」という能力を鳴らしています。ステップの順番をただ形式的になぞるのではなく、「いま自分たちはどのコア能力を使って価値を生み出そうとしているのか」というマインドセットを持つことが、デザイン思考を成功させる秘訣です。

デザイン思考「5つのステップ」の具体的な進め方

ここからは、5つの各ステップにおいて実務でどのようなツールを用い、どのように進めるのかを具体的に見ていきましょう。

共感(Empathize):現場を観察し、ユーザーの「暗黙知」を捉える

共感フェーズの目的は、アンケート調査では出てこない「水面下の暗黙知(本音・無意識の習慣)」をすくい上げることです。人間は言葉(建前)と実際の行動(本音)が食い違うことが多いため、アンケートの回答だけを信じてはいけません。

共感マップの4象限構造

この段階で活躍するのが「共感マップ(Empathy Map)」です。ユーザーを現場で観察したり対話したりした結果を、以下の4象限に分類して整理します。

  • SAY(発言):本人が実際に口にした言葉(客観的事実)
  • DO(行動・動作):手の動き、目線、ためらい、作業の様子(客観的事実)
  • THINK(思考):頭の中で何を考えていたかの推察(主観的推測)
  • FEEL(感情):不安、焦り、苛立ち、安心感などの推察(主観的推測)

左側の客観的事実(SAY/DO)と、右側の主観的推測(THINK/FEEL)を明確に切り分けて書き出すことで、チーム全体で思い込みを排した解像度の高いユーザー像を共有できます。

共感マップの詳しい書き方と演習解説

4象限の具体的な書き分け手順や、事実と推測を切り分けるワークショップの進め方については、以下の解説記事をご参照ください。

定義(Define):言動の矛盾から「解くべき真の課題(POV)」を定める

共感マップで集めた情報から、ユーザーの言動の「矛盾(ギャップ)」を探します。「早く終わらせたいと言いながら、手作業の確認を繰り返している」といった矛盾の裏側には、本人が自覚していない「インサイト(隠れた本音)」が存在します。

POVからHow Might We(問い)への変換プロセス

インサイトを見つけたら、ユーザーが求めている理想状態(ニーズ)を「名詞ではなく動詞」で捉え、POV(Point of View:着眼点)という問題文を作成します。

POV(着眼点)の作成構文

[対象のユーザー] は、[インサイト(隠れた本音)] のため、[真のニーズ(動詞+機能・情緒的価値)] を必要としている。

さらに、このPOVを「How Might We…?(私たちはどうすれば〜できるだろうか?)」という前向きな問いへ変換します。「どうすれば移動中にスマホで話すだけで履歴が完璧に記録できるだろうか?」と問いを立てることで、次のアイデア発想が劇的に広がります。

インサイトの発見とPOV設定の詳しい手順

言動の矛盾からインサイトを発見し、魅力的な「How Might We(問い)」へと昇華させる具体的な実践アプローチは、以下の記事で詳しく解説しています。

発想(Ideate):問いをもとに、質より量で多様な解決策を発散する

立てた問いに対して、チームでブレインストーミング(ブレスト)を行い、大量のアイデアを出していきます。アイデア発想では「質より量を重視する」「相手の意見を否定しない(いいね!それなら〇〇)」「突飛なアイデアを歓迎する」という基本原則を徹底します。

最初から実現可能性を気にしすぎると、無難で面白みのないアイデアしか出なくなります。まずは制約を外して発散させ、その後にグループ分けや選定を行うことが大切です。

チームでアイデアを発散・収束させる詳しい手法

ブレインストーミングのファシリテーションや、大量のアイデアをグルーピングして有望な案を選定するKJ法の実践手順については、以下の解説記事で詳しく解説しています。

試作(Prototype):低コストで素早く「手を使って考える」

アイデアが決まったら、会議室での議論をすぐに切り上げ、手を動かして素早く形にします。デザイン思考では「手を使って考える(Thinking with your hands)」姿勢が極めて重視されます。

最初から多額の予算や開発期間をかけて完成品を作る必要はありません。数時間から1週間、1万円以下の低予算でコンセプトだけを試す「プレトタイピング(Pretotyping)」を活用します。

低リスクで試すプレトタイピングの3つの手法
  • 紙のモックアップ(ペーパープロトタイプ):画面の手書きスケッチを紙芝居のようにめくって操作感を確かめる。
  • 身近な日用品での代用実験:「人体模型エアバッグで服のシワを伸ばす」アイデアであれば、風船を膨らませてドライヤーの温風を当ててみる。
  • 既存ツールの組み合わせ(オズの魔法使い):システムを開発する前に、裏側で人間が手作業でデータを連携させてサービスを提供してみる。

形にすることで、言葉だけでは伝わらなかった課題や新たなアイデアがチーム内で一気に明確になります。

検証(Test):ユーザーに使ってもらい「売り込まずに観察する」

作成したプロトタイプを実際のユーザーに体験してもらい、仮説が正しかったのか、どのような新たな課題があるのかを検証します。

プロトタイプ検証における3つの成功ポイント

テストを行う際の重要な心得は、「自分のアイデアを売り込んだり説明したりしないこと(Show, don’t tell)」です。プロトタイプを手渡し、使い方の説明を極力控え、ユーザーがどこで迷い、どんな表情をしたかを客観的に観察します。

検証を行う際は、以下の3点を意識します。

  1. 成功基準と撤退基準を事前に決める:「10人中7人が迷わず操作を完了できたら次へ進む」など明確な基準を設定し、ずるずると開発を続けない。
  2. 最も根幹にある「致命的な前提(そもそも使いたいか)」を最優先で検証する
  3. ユーザーの違和感や失敗を、次のステップへの貴重な「学び」として受け止める

初めてデザイン思考を実践するチームへのアドバイス

デザイン思考を実際の組織やプロジェクトで活用していくために、チームが最初に意識すべき実践のポイントを整理します。

テストを通じて「共感」へ戻り、ユーザー理解を深める反復のサイクル

デザイン思考のプロセスにおいて、最後の「テスト」は単なる合否判定(合格か不合格か)の場ではありません。テストの真の目的は、「プロトタイプを触るユーザーの生々しい行動や反応を観察し、最初のステップである『共感』へ戻ること」にあります。

実際にユーザーが試作品を使っている姿を目の当たりにすると、「なぜここで操作の手が止まったのか」「なぜ用意された機能を使わず別の行動をとったのか」「どんな表情や感情の揺れ動きがあったか」という、机上では決して見えなかった新たな暗黙知(本音や無意識の習慣)が浮かび上がってきます。

もしユーザーが興味を示さなかったり、想定と全く違う反応が返ってきたりした場合でも、失敗したと落胆する必要はありません。それは「最初のスタート地点(共感)に戻って、ユーザー理解をもう一段深めるための絶好のヒントが得られた」ということです。

テストを通じて何度も「共感」に立ち戻り、ユーザー理解の解像度をスパイラル状に高めていく反復のサイクルを回し続けることこそが、真に芯を食った価値を生み出すための最大の秘訣です。

チーム全員の「共通言語」として身につける学習の第一歩

デザイン思考は、個人のアートやひらめきではなく、「チーム全員で合意形成を図りながら課題解決を進めるための推進プロセス」です。

メンバー全員がプロセスの共通言語を理解しているからこそ、「いまは共感に集中すべき時間だ」「ここは批判をせずアイデアを広げる段階だ」と足並みを揃えて前進できます。

チームでデザイン思考の共通言語を身につけるなら

デザイン思考の具体的な5ステップや共感マップ・インサイト発掘の実践手法を体系的に学び、チーム全員で共通言語として定着させたい方は、以下のUdemy講座がおすすめです。基礎から実務への適用手順まで、豊富な具体例と演習を通じてスムーズに習得できます。

まとめ:5つのステップを柔軟に循環させて成果を出す

デザイン思考の5ステップは、順番通りに1回通すだけのマニュアルではありません。ユーザーの現場を観察し、真の課題を定義し、小さく試して改善を繰り返すための「思考のコンパス」です。

  • 人間中心の課題解決:見た目の装飾ではなく、ユーザーの未解決の不満(Desirability)から出発する
  • 5つのフェーズ:共感 ➔ 定義 ➔ 発想 ➔ 試作 ➔ テストの柔軟な循環
  • 試作とテストの実践:手を使って素早く形にし(プロトタイプ)、売り込まずに観察する(テスト)
  • 反復のサイクル:テストを通じて最初の「共感」に立ち戻り、ユーザー理解の解像度をスパイラル状に高める

まずはチームで身近な業務の観察から、ユーザー中心の課題解決を体感してみましょう。

DX人材育成・学習ロードマップ
全社的な教育設計やご自身の学習計画の参考として、本サイトでは3つの役割に応じた学習ロードマップを公開しています。

経営層・管理職向け
DXの定義や必要性、組織変革を支えるスポンサーシップを最短で学びます。

一般社員向け(DXリテラシー標準 DSS-L準拠)
DXリテラシー標準(DSS-L)に準拠し、デジタル技術の基礎知識や変革マインドを身につけ、身近な業務改善や自社課題の発見へ主体的に関わる土台を作ります。

ビジネスアーキテクト・推進リーダー向け
既存事業の効率化から新規事業の開拓までをリードするため、プロジェクト推進法やチェンジマネジメント手法などを体得します。

DX教育・講座活用に関するお問い合わせ
「何から始めればいいかわからない」「うちの会社に合う進め方を相談したい」など、DX推進やDX人材育成、研修等のご相談がございましたら、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせフォームを開く(Googleフォーム)

コメント

タイトルとURLをコピーしました