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なぜ今「デザイン思考」が必要なのか?ビジネス・DX推進で注目される理由と背景

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悩む人物
「『DX推進にはデザイン思考が欠かせない』とよく聞きますが、なぜデザイナー以外のビジネス職やエンジニアにも必要なのでしょうか?」
「業務効率化のツール導入は進めているものの、顧客への提供価値を高めて売上を伸ばすとなると、何から始めればよいか分かりません…」

近年、新規事業の立ち上げや社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、「デザイン思考(Design Thinking)」というキーワードを目にする機会が急激に増えました。しかし、「デザインは専門のデザイナーが担当する領域ではないのか」「ビジネスの現場には論理的思考(ロジカルシンキング)があれば十分ではないか」と疑問を感じているビジネスパーソンや企画担当者も少なくありません。

実は、ビジネスやDX推進で求められるデザイン思考とは、「製品の見た目を美しく装飾すること」ではありません。変化が激しく正解のない時代において、「顧客やユーザーの生々しい行動・感情に深く寄り添い、真に解くべき課題を発見して、試作と検証を繰り返しながら価値を具現化する推進プロセス」こそがデザイン思考の本質です。

本記事では、そもそもDXが目指す「提供価値の向上」とは何かという大前提から、なぜその達成にデザイン思考が必要不可欠となるのか、その背景と理由を分かりやすく解説します。

この記事でわかること
  • DXの本質:単なるコスト削減にとどまらず「市場・顧客への提供価値」を高めて売上を伸ばすこと
  • 提供価値を高める2つのベクトル「既存事業の深化(進化)」と「新事業・新価値の探索」
  • DXでデザイン思考が必要とされる3つの理由(問題発見へのシフト・人間のニーズ起点・プロトタイプによる適応)
  • 「もっと速い馬が欲しい」と言った顧客の罠:アンケート(形式知)では見抜けない本音(暗黙知)の壁
  • マクドナルドのサラダ事例や松下電器のパン職人事例に学ぶ「観察と体験」の威力
  • デザイン思考をチームの「共通言語」にし、身近な社内連携の困りごとから始めるファーストステップ

そもそもDXとは何か?単なるコスト削減を超えた「提供価値」の向上

デザイン思考の必要性を理解するためには、まず「そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何を目指す取り組みなのか」という原点に立ち返る必要があります。

DXの本質は「市場・顧客への提供価値」を高めて競争力を獲得すること

多くの企業がDXに着手する際、まずは「紙書類のデジタル化」「定型業務の自動化(RPA導入)」といった社内業務の効率化・コスト削減から始めます。これらは業務の無駄を省き足元を固める上で確かに重要です。

しかし、コスト削減だけを追求しても、企業の売上や利益が劇的に増えるわけではありません。DXの真の目的は、デジタル技術やデータを活用して企業の競争力を根本から高めること、言い換えれば「市場、顧客、社会に対する提供価値を圧倒的に高めること」にあります。

顧客にとっての利用体験や価値が高まるからこそ、自社の製品やサービスが選ばれ続け、結果として売上や利益の持続的な成長につながるのです。

2つのベクトル「既存事業の深化(進化)」と「新事業・新価値の探索」

顧客への提供価値を高めていくアプローチには、大きく分けて以下の2つのベクトルが存在します。

  1. 既存事業の深化(進化):現在提供している製品・サービスの利用体験、購入プロセス、アフターサポートなどをデジタル技術で磨き上げ、既存顧客の満足度とエンゲージメントをさらに高める。
  2. 新事業・新価値の探索:これまでにない全く新しい顧客体験やビジネスモデルを模索し、将来の柱となる新たな市場を開拓する。

企業が長期的に生き残るためには、この「既存事業の深化」と「新価値の探索」の両方をバランスよく推進する姿勢(両利きの経営)が求められます。

共通する大前提:ユーザーを深く理解しなければ価値は届けられない

既存事業の深化であれ、新規事業の探索であれ、共通する極めて重要な大前提があります。それは、「実際に利用するユーザー(顧客や現場の社員)が、日々の生活や業務の中でどんな不満、不安、願望を抱えているのかを深く理解しなければ、本当に喜ばれる価値を届けることはできない」という点です。

どれほど最新のITツールを導入しても、使い手の心理や行動実態を無視した独りよがりのシステムでは、誰も使ってくれません。だからこそ、「人間(ユーザー)の理解」から出発するアプローチが必要になるのです。

なぜDXの推進に「デザイン思考」が必要不可欠なのか

市場や顧客への提供価値を高めるために、なぜ従来のビジネス思考(ロジカルシンキング等)だけでなく「デザイン思考」が強く求められるのでしょうか。その理由は大きく3つあります。

「問題解決(最適解)」から「問題発見(真の課題の再定義)」へのシフト

従来のビジネス教育で最も重視されてきたのは、「ロジカルシンキング(論理的思考)」です。ロジカルシンキングは、「すでに問題や目的(What / Why)が明確に定義されている状況において、最も効率的で筋の良い解決策(最適解)を導き出す」場面で圧倒的な威力を発揮します。

しかし、前例のない新しい価値を創出したり、既存サービスの体験を根本から見直したりする場面では、「そもそも何を解決すべきなのか」「ユーザーが本当に困っていることは何なのか」という問題の特定そのものが不透明です。間違った問題をいくら論理的に解いても、誰も使わない無駄なシステムが出来上がるだけです。

比較項目 ロジカルシンキング(論理的思考) デザイン思考(人間中心思考)
主たる目的 問題解決(最適解の導出)
定まった課題に対して最も効率的な手段を選ぶ
問題発見(真の課題の再定義)
何が解くべき本質的な課題なのかを問い直す
思考の起点 過去の定量データ、既存の市場調査、論理構造 ユーザーの生々しい行動、無意識の感情、共感
アプローチ 分析型(正解を1つに絞り込む・収束重視) 創発・反復型(発散と収束を繰り返し小さく試す)

ロジカルシンキングとデザイン思考は対立するものではありません。「デザイン思考で解くべき真の課題とアイデアを発見し、ロジカルシンキングで実現可能性と収益性を緻密に検証して事業化する」という両輪の関係で回すことが、DXを成功に導く鍵となります。

「技術や企業都合」ではなく「人間のニーズ」に軸足を置く

多くのDXプロジェクトや新規事業が失敗に終わってしまう典型的なパターンは、「最新のAIやクラウド技術が使えるから(Feasibility:技術的実現性)」や「経営層からコスト削減や売上目標を課されたから(Viability:事業性)」といった、企業側の都合や技術起点からプロジェクトをスタートさせてしまうことにあります。

デザイン思考における3要素(ニーズ・技術・ビジネス)の統合

どれほど高度な技術を使い、どれほど綿密な収益計画を立てても、肝心のユーザーが「使いたい」「欲しい」と思わなければ、そのシステムは利用されず投資は無駄になります。

デザイン思考の神髄は、「まず最初に人間のニーズ(Desirability:有用性・魅力)に徹底的に軸足を置き、ユーザーの満たされない不満や願望を出発点にする」という順番の転換にあります。

  1. 人間のニーズ(Desirability):ユーザーが心から求めている価値や、現状解決されていない不満は何か(ここからスタートする)
  2. 技術的実現性(Feasibility):そのニーズを、現在の自社の技術やリソースでどう具現化できるか
  3. ビジネスの持続可能性(Viability):それが事業として採算が合い、持続可能なビジネスモデルになるか

「ユーザーの切実な課題」を出発点にし、そこに技術とビジネスの現実性をすり合わせていく思考プロセスこそが、確実性の高いDX施策を生み出す土台となります。

プロトタイプ検証を繰り返し、変化に適応しながら深層ニーズを掘り出す

ユーザーの潜在的なニーズは、一度のインタビューや観察だけで完璧に把握できるものではありません。ユーザー自身も自分が何を求めているか正確に分かっていないからです。

デザイン思考では、机の上で完璧な企画書を作り上げるのではなく、「数日〜1週間で作れる最小限の試作品(プロトタイプ / MVP)」を素早く作り、実際のユーザーに使ってもらうことを重視します。

プロトタイプを実際に触ってもらうことで、「ここは使いやすいが、この操作で迷った」「思っていたのと違う反応を示した」という生々しいフィードバックが得られます。この試作と検証を短サイクルで繰り返す(アジャイルに軌道修正する)ことによって、ユーザーの心の奥底にある深層ニーズを少しずつ掘り起こし、真に芯を食った製品・サービスへと磨き上げることができるのです。

アンケート調査では見抜けない「形式知」と「暗黙知」の壁

「ユーザーのニーズを知るために、顧客アンケートや社内ヒアリングをしっかり実施した」という企業は多いでしょう。しかし、集まった要望通りにシステムを開発したのに、なぜか現場で全く使われないという現象が頻発します。なぜアンケート調査だけでは真のニーズが見えないのでしょうか。

形式知と暗黙知の氷山モデル

顧客自身も自分の本音に気づいていない(建前の罠)

自動車王ヘンリー・フォードはかつて、「もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という有名な言葉を残しました。

馬車が移動手段だった時代、顧客の頭の中には「馬」という既存の選択肢しかありませんでした。顧客が本当に求めていた本質は「馬」ではなく、「もっと早く、疲れずに目的地へ移動したい」という状態だったのです。もし顧客の言葉通りに品種改良された速い馬を提供していたら、自動車という破壊的イノベーションは生まれませんでした。

また、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドでも象徴的な事例があります。アンケートで「もっとヘルシーで健康的なメニューが欲しい」という声が多数寄せられたためサラダメニューを開発・発売したところ、実際にはほとんど売れませんでした。アンケートでは「健康志向の自分」という建前を答えますが、実際に店舗へ足を運ぶと「今日はがっつりハンバーガーを食べてストレスを発散したい」という本音で行動してしまうのです。

このように、人間は言葉(建前)と実際の行動(本音)が大きく矛盾する生き物であり、自分自身の真の動機を言語化して自覚できているとは限らないという大前提を理解する必要があります。

氷山の一角である「形式知」と水面下の「暗黙知」

人間の持っている知識や感情には、「形式知」と「暗黙知」の2つの階層が存在します。

分類 特徴・伝達方法 具体例
形式知
(氷山の一角)
・客観的・論理的・体系的に表現可能
・文章、数値、図表で簡単に伝達・共有できる
マニュアル、アンケートの回答、仕様書、売上データ、建前の意見
暗黙知
(水面下の広大な領域)
・個人の身体的経験や直感、感情に内在
・容易に言語化できず、直接の体験や交流でのみ伝達される
職人の勘やコツ、無意識の操作習慣、作業中のためらい、本音の感情

アンケートやインタビューの言葉(形式知)だけに頼って企画を立てると、競合他社も知っている当たり前の機能しか作れず、ユーザーの心を動かす体験は生まれません。水面下に沈む「暗黙知」をいかに掘り起こすかがイノベーションの分かれ目となります。

「観察」と「体験」によって暗黙知を掘り起こす

言葉に表れない「暗黙知」を捉えるために、デザイン思考では「観察(Observation)」と「体験(Immersion)」の2つのアプローチを徹底します。

暗黙知の獲得手法:観察と体験

1つ目の「観察」では、ユーザーが実際に作業している現場に立ち会い、良し悪しの判断を下さずにありのままの行動を見つめます。「なぜここでマウスの動きが止まったのか」「なぜ用意された機能を使わず、紙のメモ帳に書き写しているのか」といった、本人が無意識に行っている動作やためらいの瞬間に着目します。

2つ目の「体験」は、開発者や企画者自身がユーザーと全く同じ環境で同じ作業を行い、身体的な負荷や違和感を肌で感じることです。

かつて旧松下電器が世界初の家庭用ホームベーカリーを開発した際、一流ホテルのパン職人からレシピを教わって機械を作っても美味しいパンが焼けませんでした。そこで開発担当者自身が職人に弟子入りし、一緒にパン作りを体験しました。その結果、生地をこねる際に職人が無意識に行っていた「腕をひねりながら伸ばす独特の動作」を発見したのです。この動作を機械のアーム機構に再現したことで、ふっくらと美味しいパンが焼けるようになり、歴史的大ヒットにつながりました。

自ら現場を観察し、同じ体験を身体で味わうことで初めて、言葉にできない暗黙知を自分自身の感覚として獲得できるのです。

こうして現場の観察や体験から得た暗黙知を整理・可視化し、チーム全員で共通の解像度を持つための代表的なフレームワークが「共感マップ」です。

観察した暗黙知を可視化する「共感マップ」の書き方

ユーザーの発言・行動・思考・感情を4つの象限に分類し、思い込みを排して事実と推測を整理する具体的な手順は、以下の解説記事をご覧ください。

デザイン思考をチームの「共通言語」にして実践する第一歩

デザイン思考を実際の組織やプロジェクトで活用していくために、チームが最初に意識すべき実践のポイントを整理します。

思考術ではなく「チーム全員の共通言語・推進プロセス」として捉える

デザイン思考(特にスタンフォード大学d.schoolなどが提唱するモデル)は、個人の特別なひらめきやアートの才能を競うものではありません。「チーム全員で合意形成を図りながら課題解決を進めるための体系的な推進プロセス」です。

「共感 ➔ 定義 ➔ 発想 ➔ 試作 ➔ テスト」というプロセスの枠組みをチーム全員が共通言語として理解しているからこそ、「いま自分たちはユーザーの観察に集中すべき時間だ」「ここは批判をせずアイデアの量を出すフェーズだ」と足並みを揃えて前進することができます。

チームでデザイン思考の共通言語を身につけるなら

デザイン思考の具体的な5ステップや共感マップ・インサイト発掘の実践手法を体系的に学び、チーム内の共通言語として定着させたい方は、以下のUdemy講座がおすすめです。基礎から実務への適用手順まで、豊富な具体例と演習を通じてスムーズに習得できます。

多様なバックグラウンドの「着眼点の違い」を持ち寄る

デザイン思考のワークショップにおいて、同じ部署や同じ専門性を持つ人だけで議論しても、似たようなアイデアしか出ません。

現場の業務の苦労を知っている実務担当者、課題を論理的に構造化するのが得意な企画者、技術的な実現性を判断できるエンジニアなど、経験・性格・専門性・バックグラウンドが異なる多様なメンバーが同じ現場を観察することが極めて重要です。視点が違うからこそ、「なぜあの人はあそこで困っていたのか」という解釈の幅が広がり、誰か一人の思い込みを超えた真に芯を食ったインサイトを発見できるようになります。

まずは身近な「社内連携部門の困りごと」から小さく始める

デザイン思考を初めて導入する際、いきなり「見知らぬ一般エンドユーザー向けの新規事業」といった大掛かりなテーマに挑むと、インタビューやプロトタイプ検証のハードルが高くなり挫折しがちです。

まずは、「日頃よく業務で連携している他部署のメンバー」や「身近な社内手続きの困りごと」を対象にすることをおすすめします。「隣の営業部が申請業務で困っていること」「経理部への請求処理で頻発する差し戻し」などをテーマに、現場を観察して共感マップを書き、1〜2週間で試作・検証を回してみるのです。

身近なところで小さな成功体験(クイックウィン)を積むことで、チーム内にデザイン思考の実効性と納得感が生まれ、より大きな全社DX施策へと発展させていくことができます。

デザイン思考の基本プロセスと5つのステップ

スタンフォードd.school流「デザイン思考の5段階プロセス(共感・定義・発想・試作・テスト)」の具体的な進め方や8つのコア能力については、以下の解説記事をご覧ください。

まとめ:人間のニーズ起点で、真のDX変革を始めよう

DXの本質は単なるコスト削減ではなく、市場や顧客への提供価値を高めて競争力を獲得することにあります。そのためにデザイン思考が強力な推進エンジンとなります。

  • DXの2つのベクトル:既存事業の深化と新価値の探索の双方において、ユーザー理解が不可欠
  • デザイン思考が求められる理由:問題発見へのシフト、人間のニーズ(Desirability)起点、プロトタイプによる適応
  • 暗黙知を掘り起こす:アンケートの建前に惑わされず、現場の「観察」と自らの「体験」で本音を掴む
  • 共通言語と共創:多様なメンバーで身近な社内連携の課題から小さく実践を始める

まずはチームで身近な業務の観察から、ユーザーの「困りごと」に共感する一歩を踏み出してみましょう。

DX人材育成・学習ロードマップ
全社的な教育設計やご自身の学習計画の参考として、本サイトでは3つの役割に応じた学習ロードマップを公開しています。

経営層・管理職向け
DXの定義や必要性、組織変革を支えるスポンサーシップを最短で学びます。

一般社員向け(DXリテラシー標準 DSS-L準拠)
DXリテラシー標準(DSS-L)に準拠し、デジタル技術の基礎知識や変革マインドを身につけ、身近な業務改善や自社課題の発見へ主体的に関わる土台を作ります。

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既存事業の効率化から新規事業の開拓までをリードするため、プロジェクト推進法やチェンジマネジメント手法などを体得します。

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